丘と水路と橋と火を

言葉と技術

いつからか本が読めなくなった。 
時間的な制約があるわけでも、肉体的な制約が生じたわけでもない。
本によって、文字によって、情報を得ることがなくなったわけでもない。
ただ、本に没頭するということが、自分のなかから抜け落ちたようだった。

いつからか記憶に限界があることに気づいた。
記憶は時間的にも肉体的にも制約を受けていることに、小さく絶望した。
情報を得ることに特化した本の読み方は、悪ではない。
ただ、情報を記憶し活用していく一連の能力に、もっと自覚的になる必要があった。

本に関して書いてきたが、これらは本のみに対する事柄ではない。
読むことはすべての行為に当てはまる。

見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたこと。
すべては忘れ得るものである。
このことを深く自覚しなければならない。
自分が覚えていたいことを忘れない。
これからここに書き綴っていくことは、すべてこの感情に従って書かれる。
制約に対する戦いを、いま明確にはじめたいと思う。