立場上*1、よく後輩や高校生から「短歌の本でおすすめありませんか?」と聞かれる。
そういうときは様々な歌人の作品を読むことができるアンソロジーを勧めたり、好きな短歌・歌人を訊いてその人が好きそうな本を勧めたりしている。
だが、そういう話をしたとしても大抵は口頭で書籍名を伝えるくらい。
尋ねた人は「どんな本を勧められたんだっけ?」と忘れてしまうだろうし、勧めた自分も「このまえも人に教えたけど、あの時はどんな本を勧めたんだっけ?」と忘れてしまいがちである。
そこで本稿では
- 最近短歌を始めたが、どんな本から読もうか迷っている
- 短歌のサークルや短歌結社に最近加入したが経験はまだ少なく、初心者を脱するのに良い本を探している
という人を対象に、個人的にお勧めしたい本やシリーズをリストアップしてみたい。
なお、短歌の本の入手経路としては主に以下が挙げられる。
- 書店での購入
- 出版社への直接注文による購入
- Amazonなどネットショッピングでの購入
このうち、1の方法は身近に短歌関連の書籍に強い書店*2がない場合には中々良い本に出会えない。また、2の方法は欲しい本がはっきりしている場合は非常に有効だが、手間も時間もかかるし、何を読もうか迷っている段階ではあまり有効ではない。
そこで本稿では3の方法を採用して、Amazonでいま*3買える、僕が個人的にお勧めしたい短歌の本を紹介する。
すぐに買わずとも、自分のほしいものリストに追加しておいて、後で書店や図書館などで探してみるのもありだろう。
これならかなり気軽に本を入手することができるだろうし、購入や読書の計画も立てやすいのではないかと思う。
「沢山あってどれから読めばいいかわからない……」という人であれば、《入門書系》で気になるものを手に取ってみてから、《アンソロジー系》のどれかから読んで自分の好きな歌人や作品の傾向を掴み、気になった《歌集・叢書系》を読んでみて、もっと気になれば《歌論・評論系》を読んでみる、というのがいいだろう。
関連商品に出てくる本をいろいろ探してみるなど、自力で取っ掛かりを作る工夫などもしてみてほしい。
《入門書系(短歌を作ってみたいけどよくわからんという人向け)》
「短歌作りは困難な道であり、むつかしい作業であると覚悟してください」という言葉が序盤から出てきてびっくりするかもしれない。
非常に平易な親しみやすい文章で書かれており、「困難な道」に踏み出す一歩目としてとても良いと思う。
「口語の歌」「直喩」「本歌取り」など、短歌に登場する技法や表現、内容ごとに項目を立てて説明されている。
伝えたい内容を効果的に伝える表現の引き出しを整えることは、とても意味があることだと思う。
これらの本は、短歌表現の基礎となるテクニックを具体的に教えてくれる。
《アンソロジー系(いろんな歌人の作品を一度に読みたい人向け)》
1970年代から1990年代までに生まれた歌人40名の作品を解説と共にまとめた、いま最もアツい短歌のアンソロジー。
現代短歌の最先端を垣間見ることができる。
余談だが、著者の山田航さんのブログ『トナカイ語研究日誌』の現代歌人ファイルもぜひ併せて読んでみてほしい。*4
『桜前線開架宣言』より少し前、1990年代くらいまでの短歌作品をまとめて読むのであれば、上の2冊あたりをお勧めしたい。
ニューウェーブ(穂村弘、加藤治郎、荻原裕幸を中心とした世代)までを俯瞰することができ、今なお第一線で活躍する歌人も多いことから、これらの本を足かがりに興味を広げて歌集・叢書に当たるのは有効な方法である。
「あなたが日本人ならこれだけは知っておいてほしい」という短歌をそれぞれ100首ずつ*5取り上げている。
各作品には著者による丁寧な解説が添えられており、文章の良さもあって非常に読みやすい。
短歌にこれまであまり触れてこなかったという人にもぜひお勧めしたい。
《歌集・叢書系(それぞれの歌人の作品をしっかり読みたい人向け)》
単純にお勧めしたい本を挙げてしまうと非常に数が多い(そしてどこまで挙げたらいいのか判断がつかない)ため、シリーズとしてまとまっているものからそれぞれ数冊ずつ紹介しておきたい。
各シリーズで興味を惹かれたものから好きに当たってみるのが良いと思う。
・新鋭短歌シリーズ
書肆侃侃房より出版されているシリーズ。
現在も継続的に新刊が出ており、新進気鋭の歌人の作品を読むのにはうってつけである。
書店での取り扱いも多いため、比較的容易に入手することができるのも嬉しい。
・現代歌人シリーズ
こちらも書肆侃侃房より出版され、新刊を継続的に刊行している。
若手実力派のみならず、ベテランまで幅広く参加しているため注目度が高い。
かわいい海とかわいくない海 end. (現代歌人シリーズ10)
- 作者: 瀬戸夏子
- 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
- 発売日: 2016/02/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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忘却のための試論 Un essai pour l'oubli (現代歌人シリーズ9)
- 作者: 吉田隼人
- 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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・現代歌人文庫
国文社より出版されるシリーズで、それぞれの歌人の歌集を数冊収録している。*6
出版元で在庫がなくなってしまって入手が難しいものもあり、中古でプレミアがついていることも。*7
今なお購入をお勧めできるシリーズである。
・現代短歌文庫
砂子屋書房より出版されているシリーズ。こちらも今も重要な書籍群である。
多少プレミアが付いていることもあるが、中古本であればAmazonでも購入できるものが多い。
・短歌研究文庫
Amazonであれば、『塚本邦雄歌集』『上田三四二歌集』あたりが購入可能。
・「セレクション歌人」
邑書林より出版。全33巻。
中堅歌人が多く参加しており、各歌人の作品を気軽に俯瞰することができる。
Amazonでもかなりの数が取り扱われており、比較的容易にアクセスできるだろう。
もちろん、シリーズではなく個別に出版されている歌集も数多くある。こちらも普通に挙げていくと非常に膨大な数になってしまうため、個人的に好きな数冊を挙げておくにとどめる。
- 作者: 笹井宏之,加藤治郎
- 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
- 発売日: 2011/01/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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《歌論・評論系(短歌に少し慣れてきた人向け)》
ある程度慣れてきた人なら、歌論や評論に手を伸ばしてもいいと思う。
様々な実例を挙げながら短歌の読みを展開し、その作品の構造を暴く。
口語などの身近なテーマから歌人論に至るまで、著者の多彩な読みが光る。
なぜここに「入門」と名のつく本を置いたか?
それはこの本が、入門と銘打ちながらも実は本当の初心者には少し難解で、むしろある程度短歌に慣れてきた人が中級・上級へと向かうステップとなりうる本だからである。
少し入手しづらくなっているようだが、中古でも良いからぜひ手元に置いておきたい1冊。
もう少し高度な内容についても理解を深めたいのであれば、次のような書籍から見てみるのが良いと思う。
《雑誌系》
短歌に関する情報収集を行うなら、雑誌をパラパラとでもチェックしておくのが良い。
最近刊行された歌集について書評が載っており、参考にできる。
また、様々な特集が毎回組まれるなど、読み応えも十分である。
・角川「短歌」
・「短歌研究」
・「歌壇」
・「現代短歌」
・「短歌往来」
・「NHK短歌」
*1:どんな立場やねんという感じかもしれないので、一応補足。2012年10月に東北大学短歌会という学生短歌会(学生による短歌のサークル)を立ち上げて、2016年4月まで会長として運営していました(院進学したので現在も在籍中)。また、2015年には「短歌甲子園(全国高校生短歌大会)」という大会で審査員を務めました。
*2:東京・新宿の紀伊国屋書店本店さん、京都の三月書房さん、大阪の葉ね文庫さんなどは、短歌関連の書籍を非常に多く取り扱ってくださっています。お近くの方はこちらに行ってみた方が早いことも。
*3:2016年5月21日時点
*4:http://d.hatena.ne.jp/yamawata/
*5:本文中に紹介されている短歌もあるため、正確にはもっと多い。
*6:完本が収録されている場合もあれば、抄本が収録されていることもあります。
*7:このシリーズの『小野茂樹歌集』が個人的にはドストライクでした。入手困難な第1歌集『羊雲離散』、第2歌集『黄金記憶』が完本で収録されています。プレミアがついており本稿の趣旨から外れてしまうので紹介できませんでしたが、こちらもお勧めしたい1冊です。